肩関節とは

肩関節は、上腕骨と肩甲骨で構成される関節です。
上腕骨の先端の丸い部分を上腕骨頭といい、上腕骨頭が関節窩と呼ばれる肩甲骨のくぼみにはまり込むような形になっています。
この連結は自由度が高く、腕をさまざまな方向に動かすことができます。

肩関節のイメージ
肩の構造

肩関節は周りにある筋肉や腱が支えることで安定性を保っています。
加齢によって筋力が衰えると、筋肉や腱にかかる負荷が大きくなり、これらの組織が傷むことで痛みの原因となります。

肩の痛みとは

肩の痛みのイメージ

肩の痛みの原因は、加齢が関係する疾患やケガによるものがあります。
症状は長期間かけて徐々に進行する場合や、ケガなどの衝撃で突発的に始まる場合もあります。
どちらの場合も痛みが強ければ肩や腕が動かせなくなります。
徐々に進行する場合は、痛みとともに腕が挙がらなくなったり、回らなくなったりして肩の動きが悪くなります。

肩の痛みを改善させるには、外来での薬物治療や関節内への注射だけではなく、リハビリテーションによる治療も必要になることが多いです。
当院では超音波装置を使用し、治療が必要な部位に正確な注射を行っています。
また、リハビリテーションとして電気刺激治療、磁気刺激治療、ラジオ波などによる物理療法、理学療法士による個別リハビリが可能です。

肩の痛みで悩まれている方はどうぞご相談ください。

肩の痛みの原因となる
主な疾患

肩関節周囲炎

四十肩、五十肩は肩関節周囲炎

40代から50代を中心にした中年に多い肩の痛みのことを四十肩、五十肩というのは良く知られていることだと思います。
そもそも四十肩、五十肩という病名は存在せず、「俗称」という位置づけです。

四十肩、五十肩の病名としては肩関節周囲炎があてはまります。
肩関節にある腱板という腕を挙げるためのスジは、日常の動作を繰り返すことで目に見えない小さな傷ができ、傷が原因となって腱板の周りに炎症が起きます。
また、力こぶの筋肉である上腕二頭筋の長頭腱というスジに炎症が起きることもあります。

このように肩関節周辺の組織に炎症が起きることを肩関節周囲炎といい、炎症が痛みの原因になります。

炎症が続くと、やがて肩関節を包む膜である関節包や、肩関節の動きを良くする袋である肩峰下滑液包に炎症が及び、これらの組織は硬くなり癒着します。
癒着によって肩の動きが悪くなり、腕が挙がらない、肩が回らないという原因になります。

五十肩のイメージ:日本整形外科学会のHP 五十肩(肩関節周囲炎)から引用

症状

肩に炎症が起きた初期の主な症状は痛みです。
肩を動かした時に痛みが生じますが、肩を動かさない状態でもズキズキと肩や腕が痛みます。
肩の痛みは夜に強くなる傾向があります。
寝返りしたときや、痛い肩を下にするとズキズキ痛み、痛みで目が覚めることもあります。

痛みの原因は肩関節周囲にあるのに、多くの方は腕が痛いと言われます。
ほとんどの場合は肩を動かした際に腕の痛みが生じたり、強くなったりするので、肩から発生した痛みと判断します。
腕に痛みが生じるメカニズムは明らかにはなっていません。
腕の筋肉である三角筋の炎症や、肩から出る末梢神経が原因の可能性と考えられています。

炎症が進んで、関節包が癒着すると肩の動きが悪くなります。
高いところにある物をとろうとしても腕が挙がらない、整髪や髪を結うのが不自由になる、エプロンのひもを結ぶ動作がしにくいなどの症状が起きます。

肩関節周囲炎は強い痛みが生じてから次第に肩の動きが悪くなるという経過をたどります。
肩の痛みが強い時に受診されることが多いですが、最初の痛みが我慢できる場合は、痛みが少し治まってきて腕が挙がらなくなった状態で受診されることも多いです。

診断

肩周辺の痛みが生じている部位や動きの状態を診察します。
レントゲンでは肩関節周囲炎に特徴的な所見はありません。
レントゲン検査は、レントゲンで診断できる石灰沈着性腱板炎や変形性肩関節症を除外するためにも必要な検査です。
肩腱板断裂を除外するために、超音波検査やMRIを行うこともあります。

治療

自然に治ることもありますが、放置すると肩の動きが悪くなり、日常生活が不自由になります。
自然に治るといっても1年以上痛みや動きの悪さが続くこともあり、状態に合わせて適切な治療を行うことで、治るまでの期間を短くします。

強い痛みと炎症に対する治療

肩の強い痛みで夜も眠れない、ほとんど動かせないという場合は、肩関節の周りで強い炎症が起きています。
その場合は、まず強い炎症を治療します。

消炎鎮痛薬の内服や外用薬(湿布や塗り薬)を使用します。
痛みが強い時は、炎症を抑えるステロイドの関節内注射を行います。
ただし、ステロイドの注射は関節内の軟骨や腱を傷めるリスクもあるので、頻回にはできません。
ステロイドの注射をしても痛みが続く場合は、ヒアルロン酸を関節内に注射します。

就寝時には、痛い方の肩から肘の後ろに柔らかいクッションなどを置いて休むようにします。
そうすることで、痛い方に寝返りが打ちにくくなります。
横向きで寝る場合は、痛みがない方の肩を下にして、枕やクッションを抱えるようにすると痛みが出にくい傾向があります。

肩の拘縮に対する治療

強い炎症と痛みが治まってくると、多くの場合は肩の動きが悪くなり、拘縮を起こしてきます。
拘縮とは腕が挙がらなかったり、手が後ろに回らなかったりする状態です。
拘縮していると、無理に腕を挙げようとする時に痛みが生じます。

痛みに対しては、鎮痛薬やヒアルロン酸の注射を続けます。
当院では超音波装置を用いて関節内への注射を行っています。
超音波装置を使用することで、硬くなった肩峰下滑液包や癒着した関節包内へ正確に注射することができます。
肩周囲の筋肉が癒着して動きが悪くなっている場合は、ハイドロリリースで癒着を剥がすこともあります。

肩のリハビリイメージ

拘縮に対しては、リハビリテーションを行います。
当院では電気刺激治療やラジオ波などの物理療法、個別リハビリを行います。
個別リハビリでは理学療法士によるストレッチ、可動域訓練を行い、自宅でのセルフリハビリテーションも指導します。

筋肉が硬くなって動きが悪くなった部位に対しては、体外衝撃波治療を行い改善させます。

これらの治療をしても痛みや拘縮が改善しない場合や、肩の動きが極端に悪い場合は関節授動術(サイレントマニピュレーション)を行うこともあります。

肩腱板断裂

肩腱板断裂(腱板断裂)とは

腱板とは、肩にある4つの腱(棘上筋腱、棘下筋腱、肩甲下筋腱、小円筋腱)を総称した呼び名です。
肩関節はアウターマッスルである肩の表面にある三角筋とインナーマッスルである腱板が協調することによって動きます。
アウターマッスルは大きく太いために強い力を発揮し、インナーマッスルは関節の近くに存在するため関節の安定性を高める機能があります。

肩腱板イメージ

肩関節は動きに関して自由度が高いため、関節を安定化させるインナーマッスル、すなわち腱板の働きがとても大切になります。

腱板が断裂すると、肩関節の安定性が損なわれ腕を挙げる事ができなくなり、痛みの原因となります。

原因

腱板断裂イメージ:日本整形外科学会のHP 肩腱板断裂から引用

転倒して手をついたり、重たいものを持ったり、転びそうになって何かにつかまったりと、急激な肩への負荷で切れてしまう外傷性の場合や、加齢によって徐々に腱板がすり減り切れる場合があります。
高齢の方は特に外傷がなくても、肩の痛みの原因を調べたら腱板断裂だったというケースも多いです。

腱板の4つの筋肉がすべて切れてしまう、骨から剥がれてしまうというケースはほとんどありません。
断裂しやすいのは棘上筋で、小円筋という一番後ろの筋肉はたいてい切れずに残ります。

40歳以上の男性、右肩の発症が多く、発症年齢のピークは60代です。

症状

腕を挙げた時の痛みや夜間に続く痛み、また腕を挙げられないといった症状がありますが、夜間痛で眠れないことが受診する一番の理由です。

五十肩と呼ばれる肩関節周囲炎では肩関節周囲の組織が固くなりますが、腱板断裂の場合は痛みで腕が挙げられなかったり、自分で挙げられなかったりしても、固くなることは少ないです。

他には、挙上するときに肩の前上方でジョリジョリという音がするという訴えもあります。

診断

肩に強い痛みがあって、腕を挙げることができない、夜も痛くて眠れないという症状があれば腱板断裂を疑います。

まずレントゲン検査を行いますが、腱板はレントゲンに写りません。
しかし、腱板断裂を疑うべき骨の変化や、関節の軟骨がすり減って生じる変形性肩関節症など他の疾患もわかるので、基本の検査として行います。

腱板自体を描出する検査としては、超音波検査とMRIがあります。
一番情報量が多くはっきりとわかるのがMRIになるので、腱板断裂を疑う場合はMRIを行います。

当院にはMRIがないため、必要な場合は他院に撮影を依頼します。
超音波検査は診察室で行えるため、診察と同時に行います。

治療

保存療法(手術以外の治療法の総称です)

腱板が完全に断裂した場合は、自然に修復されることはほとんど期待できません。

痛みに対しては消炎鎮痛薬の内服や、関節内へのヒアルロン酸の注射を行います。
痛みが強い場合はステロイドの関節内注射を行うこともありますが、断裂部をもろくしてしまうので、行うかは慎重に検討します。

切れていない残った腱板の機能を回復させるリハビリテーションを行います。

最近の研究結果では腱板断裂が生じると断裂の大きさや痛み、腕の挙げにくさなどの病状は時間の経過とともに進行すると言われています。
また、切れた腱板の筋肉は有効な活動を行えず、やせたり、短く縮こまったりしていきます。

これらの変化を変性といい、変性が進行してしまうと最終的に手術で断裂部を縫おうとしても、腱板を骨のもともと付着していたところに縫うことが困難になることがあります。
縫えない場合は太ももの筋膜の移植や人工関節置換術など大きな手術が必要になることもあります。

まずは保存療法を行いますが、患者さんの年齢、症状、職業、断裂の具合などを考え、適切なタイミングで手術を考えなくてはなりません。

手術療法

手術には、関節鏡視下手術と通常手術(直視下手術)があります。
関節鏡視下手術は傷が小さく、筋肉を大きく傷つけることも少ないため、手術後の痛みが少なく、回復が早くなります。
手術後は3~5週間の固定が必要となります。

断裂の大きさや変性の具合、高齢などを考慮して人工肩関節置換術を行うこともあります。

変形性肩関節症

変形性肩関節症とは

肩関節を構成する上腕骨頭と関節窩の表面は軟骨におおわれています。
軟骨が表面の滑りを良くし、クッションとして働きます。

加齢やケガによって軟骨が徐々にすり減り、進行すると軟骨がなくなってしまい関節が変形してしまいます。

軟骨は関節のクッションの役割をするので、軟骨がすり減ると骨に負担がかかるようになり、痛みの原因となります。
また、肩関節の動きが悪くなり、腕が挙がらなくなります。

肩は膝や股関節のような常に体重がかかる関節ではないため、変形性肩関節症を発症する割合は高くはありません。
しかし、すり減った軟骨は再生しないため、腕や肩を使う動作が困難になり、徐々に進行していきます。

原因

加齢によって軟骨が傷んでしまう変性を起こすことで、次第にすり減ってきます。
腱板断裂や脱臼などで軟骨に傷がつくことも原因となります。

肩関節の脱臼が原因で生じた場合は、脱臼を繰り返すことによって症状がさらに悪化するため、早期に適切な治療を行うことが重要です。

症状

初期の症状としては、肩関節のこわばりや痛みが生じ、腕が挙がらなくなったり、回らなくなったりと動きが制限されます。
変形が進行すると、関節内に水が溜まったり、夜間に強い痛みを感じたりするようになります。

診断

肩関節の動きや痛みを感じる動作を診察し、レントゲン検査で診断します。
軟骨の部分はレントゲンに写らないため、上腕骨頭と関節窩の隙間が狭くなっていることで診断します。
進行すると、関節の隙間がなくなり、骨同士があたるようになり、上腕骨頭の下方などに骨棘という突起状の骨が作られ、関節が変形します。

正常な肩関節のレントゲン写真
正常な肩関節
上腕骨頭と関節窩の間に
隙間がある
変形性肩関節症のレントゲン写真
変形性肩関節症
関節の隙間が
なくなっている

変形性肩関節症は腱板断裂を伴うことも多いため、MRI検査も有効です。
初期の変形性肩関節症で、レントゲン上の変化が少ない場合は、肩関節周囲炎などの疾患と鑑別が困難なこともあります。
また、関節リウマチなどの他の病気が疑われる場合は、血液検査を行います。

治療

保存療法(手術以外の治療法の総称です)
薬物治療

痛みが強ければ鎮痛薬の内服や外用薬(湿布や塗り薬)を使用します。
薬ではすり減ってしまった軟骨を元に戻すことは出来ませんが、苦痛を取り除くことはできます。

一般的な痛み止め(消炎鎮痛薬)から始め、効果が少ない時は強い痛み止めを使うこともあります。
痛み止めにはたくさんの種類がありますので、効果と副作用を考慮しながら患者さんの状態にあわせて選択します。
痛みが強い時は関節内に注射を行うこともあります。

物理療法

治療機器を用いて肩関節周囲を温めて血流を改善させたり、筋肉をほぐしたりすることで痛みを和らげます。
当院では電気刺激治療、磁気刺激治療、マイクロ波治療、ラジオ波などの治療機器がありますので、患者さんの状態にあわせて選択します。

リハビリテーション

関節を動かす訓練や筋力強化訓練などの運動療法を行います。
当院では個別リハビリで行います。

このような保存療法だけでは痛みを改善させることが困難で、夜間の痛みが強く、肩関節の動きが悪いために日常生活の動作が困難な場合は手術療法が検討されます。

手術療法

変形した関節の骨を人工関節(インプラント)に入れ替える人工関節置換術を行います。
痛みの原因になる部分を取り除くため、痛みの改善に大きな効果があります。

人工関節置換術のイメージ(傷んだ関節面を切除→人工肩関節を固定)

最近ではリバース型人工肩関節置換術が行われています。
肩関節は上腕骨頭に対して関節窩が受け皿になる構造をしていますが、リバース型人工肩関節では、関節窩が骨頭の役割をして、上腕骨側が受け皿になる構造をしています。
元の肩関節と比べると反転した構造のため、リバース型といいます。
リバース型では腱板が断裂している場合でも、三角筋という肩のアウターマッスルを使って腕を挙げることができます。